【取材レポート/インタビュー】
妃たちのオーダーメイド
「セーヴル フランス宮廷の磁器」
主任学芸員・伊藤京子さんに聞くセーヴル展の魅力
過去二回にわたり「セーヴル フランス宮廷の磁器」展のレポートをお届けしてきました。
今回は、これまでお伝えしきれなかった展覧会や美術館の魅力、「セーヴル展」ご担当の主任学芸員・伊藤京子さんにうかがったお話などをご紹介します。
さて、細見美術館は大江匡氏の手掛けた建築で知られるミュージアム。地上3階・地下2階にわたる吹抜けは、何かを予感させるステージのよう。
90年代のエネルギーをまとったネオクラシックな妖しい光を放ちます。

スタイリッシュな館内
そんなスタイリッシュな空間のすぐ奥に、伊藤若冲のコレクションで有名な細見美術館らしいカフェレストラン「JAKUCHU CAFÉ」があります。
シャープな建築空間が醸し出す緊張感のせいで「だって~、お高いんでしょ?」と二の足を踏んでしまいそうですが、とんでもない。
パスタとサラダのセットが¥1,600~と、カジュアルでとっても親しみやすいお店なんです。
展覧会の見学後は、若冲の世界観あふれる店内でゆったりすごすことができますよ。

JAKUCHU CAFÉ
この「JAKUCHU CAFÉ」の落ち着いた空間で、同館主任学芸員の伊藤京子さんにご登場いただき、セーヴルの魅力や注目ポイント、展覧会の舞台裏をお聞きすることができました。
希少な初期セーヴルのコレクションが日本国内に存在していた!

主任学芸員 伊藤京子さん
「この展覧会の展示作品はすべて日本国内のコレクションなんですよ」。
これは意外。セーヴルはフランス王侯貴族のためだけにつくられた磁器。本国のフランスですら、初期のセーヴルをまとまった形で観賞できる機会はそうないのだとか。
「実は15年ほど前から、関係者の間では『セーヴルの展覧会をいつかやってみたい』という思いがありました」
しかし一方で、当時は国内のコレクションだけでの開催は難しく、海外作品の借用も検討されていたそう。ところがこの間に、日本のコレクターさん達による素晴らしいセーヴルコレクションが揃い、国内コレクションのみで開催することが可能になりました。
「日本のコレクターはとても熱心に丁寧に収集されていて、この展覧会はセーヴルの歴史や魅力を存分に体感できる貴重な機会なんです」
苦心の末に誕生した軟式磁器ならではの美しさ

若冲ワールドに囲まれて
前回の取材レポートで詳報した「磁器には『硬質磁器』と『軟質磁器』がある」ことは、伊藤さんに教えていただいた知識。
「当時のヨーロッパで憧れの的だった中国の『白い磁器』をフランスでも作り出そうとしましたが、白磁の磁土「カオリン」がないと高温で焼くことができない。
なんとか近いものをと」生まれたのがガラス成分を使用した軟質磁器。硬質磁器と比べると熱や水分に弱く壊れやすいそうですが、硬質磁器にはない乳白色の優しい色味で、見た目も柔らかに感じます。
後年、フランスでも「カオリン」が発見され、セーヴルも硬質磁器を制作するようになります。こちらも展示されているのでぜひ比較してみてください。

緑地色絵金彩花綱文ポット(1765-70)個人蔵
軟質磁器の特徴は何といっても発色の美しさ。硬質磁器と比べると低温で焼成するので、顔料の色が綺麗に出るのです。

《色絵花》1750-60年代 個人蔵
花びら一枚一枚まですべて磁器!触れるとハラハラと落ちてしまうかも。
「展示作業が大変そう…」半分独り言に「それはもう!」とすかさず伊藤主任。美術品の扱いにはいつも気を使いますが、特にそーっとそーっと扱かわなければならなかったと語ってくれました。
「と同時に、色味が重ならないようにどう置くか、その配置にも皆で悩みました。」
なるほど!確かにアクセントとなる赤が散りばめらていて、より美しく見えます。
今回は照明も、いつもの細見美術館とは変えているとのこと。本来、日本美術のコレクションでその名を知られる細見美術館。
「日本画等の作品保護の観点から照明は抑え目にしていますが、セーヴル展では磁器が映えるよう、若干明るく、そして硬質磁器のように青みがかった白にならないように、色温度も調整してるんです」
展示作品によって照明も工夫しているんですね。
光のかすかな陰影で曲面を感じる磁器は、我々も神経を使うんですよ!とアートザウルス画像係も主張してました(爆)。
会場では、照明にも注目してみてくださいね。
小さいけれどここにも注目!

《色絵金彩子供図ティーサーヴィス》1759年 個人蔵
学芸員さんならではのとっておき注目ポイント!
砂糖壷やカップの蓋にちょこんとあしらわれた小さなお花。ここには、先程ご紹介した《色絵花》の技が生かされています。こんな細部も手を抜くことなく花びらが作られている。小さくて気づきにくいですが、とっても可愛いのでぜひ会場でご覧ください。
こんなカップでお茶してみたい…

色絵金彩薔薇文カップ&ソーサー(1769年)個人蔵/色絵金彩薔薇文四方皿(1768年)個人蔵
伊藤さんもお気に入りという薔薇のカップ&ソーサー、四方皿。よく見ると蕾、一輪咲き、二輪の薔薇と描き分けられ、これでもかと美しい金彩。貴重な金が分厚く、それでいて上品。さすがセーヴル、王侯貴族御用達!
王侯貴族の注文生産ゆえ誰が注文して誰が手にしたのか、来歴がわかる貴重な磁器たち。眼の前のカップやお皿を、ポンパドゥール夫人やマリー=アントワネットが手にしたのかも…なんて想像すると、フランス宮廷のお茶会に招かれたみたい。さあ、あなたのお気に入りを見つけてください。
アンティーク・セーヴルが並ぶショップも楽しみ

ミュージアムショップで購入できます!
ミュージアムショップに着きました。ショーケースの中にも展示が?…と思ったら、ねね…値札がついてる!なんとアンティーク・セーヴルを手に入れることができるんです。ご自宅で宮廷のイメージに浸りたいお客様はぜひぜひ。
ちなみにショップの方も、梱包には緊張するとおっしゃってました…。
もっとセーヴルを知りたい方へ魅力的なお知らせ
セーヴル展の魅力を語っていただいた伊藤京子さんが講師を務める「フランス宮廷の磁器 セーヴル窯の魅力」が、佛教大学オープンラーニングセンターで開講です!
日時:12/15(月) 13時~ 14時15分
定員:対面100名/オンライン200名
ビジター価格は2,000円。1か月の見逃し配信もあります。
申込・詳細は[佛教大学O.L.C.]まで。
https://bukkyo-u.olc.study.jp/rpv/home/olc/course_detail.aspx?k=Aup3%2b5cfpjMkYg72igfmLXyzJGcoClG5HgptpCbDeG3HdogKUYzomfWFfOEKTp1Z
伊藤さんの解説でセーヴルの魅力を堪能できます。関心をお持ちの方はふるって受講しましょ!


