【取材レポート】
妃たちのオーダーメイド
「セーヴル フランス宮廷の磁器」
細見美術館<京都市>

会場入口
京都・細見美術館で開催中のセーヴル展。前回の「ちょい見せレポート」ご覧いただきましたでしょうか。今回は、展覧会の見どころを詳しくご案内いたします。
あのマリー=アントワネットや、ポンパドゥール夫人が手にした器などがずらりと並び、フランス宮廷の雰囲気に浸ることができる華やかな会場です。

《色絵金彩婦人図花瓶》1774-75年 個人蔵
「セーヴル磁器」の「セーヴル」とは?
「セーヴル」とは、パリと宮廷のあるヴェルサイユの中間に位置する土地の名。そしてこの地に築いた窯で焼かれたのが「セーヴル磁器」なんです。
セーヴル窯の創設に深く関わったのが、ルイ15世とその寵姫・ポンパドゥール侯爵夫人。どこかで聞いたような名前ですね。髪型?パン屋さん?現在でもいろんなところでその名を耳にすることがありそうです。
ポンパドゥール侯爵夫人は才色兼備で、文化の保護のみならず政治にも大きな影響力を持っていました。パリ東方にあったヴァンセンヌ窯を自らの居城近くのセーヴルに移転させ、夫人の献言で「王立セーヴル磁器製作所」としたのです。
中国磁器への憧れ 硬質磁器と軟質磁器

《色絵花》1750-60年代 個人蔵
もともとヨーロッパには「磁器」は存在せず、中国から輸入される真っ白な磁器は人びとの憧れの存在でした。ヨーロッパでも各地で生産が試みられ、いち早く成功したのがドイツのマイセン窯です。
フランスでも中国やマイセンの白磁を模倣した磁器が生産されました。しかし当時、白磁に使われる磁土「カオリン」がフランスにはなかったため、人工的に配合した磁土で疑似白磁の「軟質磁器」を生み出しました。
軟質磁器は中国やマイセンの硬質磁器と比べて低温で焼成されるため、軟らかく割れやすい、しかし発色が美しいという特徴があります。
後年フランス国内でも「カオリン」が発見され、セーヴルでも硬質磁器を生産するようになります。が、セーヴルは引き続き軟質磁器の鮮やかな発色を生かした優美な磁器をつくりあげていきます。
セーヴルならではの色彩

《青地色絵金彩薔薇文四方皿》1768年 個人蔵
軟質磁器ならではの鮮やかな発色をご紹介。
まずは「ブルー・セレスト(天青色」)。遠くからでも目を引く鮮やかな青色です。セーヴルはこの色のために、硬質磁器を生産するようになってからも軟質磁器を作り続けたといわれています。

《淡紅地色絵金彩花文カップ&ソーサー》1761年 個人蔵
次は艶やかなピンク。ポンパドゥール侯爵夫人時代だけの色とされる、通称「ポンパドゥールピンク」です。なんて優雅な色なんでしょう。
ブルー・セレストとポンパドゥール・ピンクが並んでいると、金彩の輝きもあいまって展示空間がほんとうに華やかです。
選ばれし人のためのオーダーメイドの器たち

カップ&ソケットソーサー展示風景
ポンパドゥール夫人といえば、こちらもぜひ見てください。
一見、普通のカップ&ソーサーですが、ソーサーのくぼみにご注目!深いですよね。カップの底のほうがすっぽりと収まっています。
なぜこんな形に?理由は、ポンパドゥール夫人が病弱だったためベッドの上で飲みやすいようにこんな形になったのだとか。
王侯貴族の注文品としてつくられた、セーヴルならではの品なのです。

《色絵金彩花文携帯用ティーサーヴィス》1768年 個人蔵
とても可愛らしいティーセットを見つけました!
これは携帯用のセットで、収納箱も当時のもの。箱の中にあるガラス瓶はリキュールやフレーバーを入れる容器とのこと。
細部ですがシュガーポットの蓋のつまみもお見逃しなく。ちっちゃなお花で飾られているんです。当時砂糖はとても貴重品だったので、砂糖の容器はどれも美しい装飾が施されました。それにしても250年以上前のものとは思えない美しさ。
考えてみれば、会場に並んでいる品々のほとんどは200年以上前につくられたものなんですね。
セーヴル職人の技を堪能

《山鶉目地色絵金彩花文鉢》1767年 個人蔵
会場を飾る品々の華やかな面だけでなく、セーヴルを支える職人の細かな技術もぜひじっくりとご覧ください。
これはサラダ用の鉢。縁一円に施された小さな白い円、その中央には小さな赤い花文が。もちろん全部手描きです。模様は縁だけでなく側面にもびっしり!
限られた数の注文生産品だからこそなせる技でもあります。

《藍地金彩七宝飾カメオ文カップ&ソーサー》1784年 個人蔵
真珠や翡翠、ルビーを模した盛り上げ技法が美しいカップ&ソーサー。
画像ではちょっと見えにくいのですが、緑色で囲まれた中央の白い部分はカメオを模した肖像画になっていて、ひとつひとつ異なる顔が描きこまれているんです。
ルイ16世時代、外交的な贈り物だけに使用された技法です。
デザインの変遷から時代の流れが見える

《色絵金彩真珠花文皿》1781年 Masa’sCollection 《色絵金彩花文皿》1781年 個人蔵
ルイ16世の妃、マリー=アントワネットが注文した食器セットの一部。
王妃が愛した真珠と矢車菊、薔薇、すみれなどが描かれた、上品で清楚なお皿です。
セーヴルの歴史は、18世紀以降のフランスの為政者の歴史でもあります。
時々の権力者から受注し生産された磁器には、当時の流行、注文主の趣向が色濃く反映されます。
権力が移るとともにセーヴル磁器の風合いが変化していく様子はたいへん印象深く、興味をそそります。

《淡紅地金彩コーヒーサーヴィス》1838年 個人蔵
フランス革命でブルボン王朝が倒れると王立のセーヴル窯は存亡の危機に見舞われますが、ナポレオン1世の統治下で再興します。
このコーヒーカップセットはナポレオン時代後のもの。ブルボン王朝期に見られた、ロココ風の優雅な風合いとはずいぶん印象が違います。
セーヴルはコストのかかる軟質磁器の生産をやめ、生産効率の良い硬質磁器に舵を切りました。また、帝政ローマ時代を理想とした新古典主義を反映してアンピール(帝政)様式と呼ばれる荘厳なデザインが好まれたのです。
現代に続くセーヴル
帝政の時代から共和制へ、そして大戦という大きな時代のうねりを乗り越えて、セーヴルはフランスを代表する磁器として現代に続いています。
展示の最後に、町田市立博物館が所蔵する河原勝洋コレクションも紹介されていました。ヴァンセンヌの開窯から現代までのカップ&ソーサーに特化した河原コレクションは、セーヴルとフランスがたどった「時代」を凝縮したものです。
小さなカップ&ソーサの様式の変遷から垣間見える歴史を感じながら、現代のセーヴルを観賞するのも一興。
フランス宮廷華やかなりし頃から現代に至るちょっとしたタイムトリップを、あなたも細見美術館でお楽しみください。
さて、アートザウルス「セーヴル展取材レポート」第三弾も近日公開!
担当学芸員の伊藤京子さんにいただいたコメントを中心にお届けします。
次回もぜひお楽しみに!
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妃たちのオーダーメイド「セーヴル フランス宮廷の磁器」
会期:2025年10月25日~2026年2月1日
会場:細見美術館
Web:https://www.emuseum.or.jp/
開館時間:10:00~17:00
休館日:毎週月曜日(祝日の場合、翌火曜日)
年末年始(12月22日~1月5日)
料金: 一般 2,000円 / 学生 1,500円

