【取材レポート】
特別展
「絵本作家・葉祥明の世界ーメルヘンから平和へ」
神戸市立小磯記念美術館【神戸市】

美術館外観

葉祥明…その名を聞いたことがなくても、ひと目見れば「この絵、知ってる!」そんな人も多いはず。
1970年代後半から「メルヘン画家」として一世を風靡し、画家、絵本作家、詩人として現在も活躍する葉祥明氏。
氏の画業50年の足跡をたどる展覧会が、緑豊かな神戸・六甲アイランドに建つ神戸市立小磯記念美術館で開催されています。

葉祥明、そのメルヘンの世界

《妖精の棲む森》(『Life is···』26‐27頁 原画)2002年 北鎌倉葉祥明美術館所蔵

広々とした草原に小さくたたずむ家。作品の中に、穏やかな世界がどこまでも広がります。

パステルカラーで優しく描かれた葉祥明氏の絵は、1970年代後半~80年代に巻き起こった「メルヘンブーム」で瞬く間に人々の心をつかみます。
葉氏は心癒される画風で、ブームを牽引してきました。

メルヘンブームグッズ 北鎌倉葉祥明美術館所蔵

葉祥明氏の絵はマグカップやタオルなどのアイテムに展開され、これら「メルヘン雑貨」は女の子たちの間で大きなブームとなりました。

葉氏の絵は1984年から95年にかけて全日空の時刻表の表紙を飾っていたので、空を征くビジネスマンたちも目にしていたのではないでしょうか。

葉祥明氏

今年7月で80歳を迎える葉祥明氏。
「今回は50年の画業を振り返る展覧会ですが、さあここから再出発という意味もあります」と、にこやかに意気込みを語ってくれました。

ファッション・イラストレーターを目指してN.Y留学

《Lady with bouquet》1971年 北鎌倉葉祥明美術館所蔵

葉祥明氏は大学在学中にイラストの勉強を開始。卒業後はニューヨークのアートスクールに留学しながら、当初はファッション・イラストレーターを目指していました。

モディリアーニの作品も好きでモディリアーニスタイルの女性を描いていて、当時の貴重な油彩作品が展示されていました。

絵本との出会い~メルヘン画家へ

ニューヨーク留学後、ライフスタイルを模索していた葉祥明氏は絵本と出会い、シンプルな構図や文の創作に関心を寄せるようになります。

『ぼくのべんちにしろいとり』は葉祥明氏の絵本デビュー作。
おなじみの犬のキャラクター、ジェイクも初登場です。
この絵本がアンパンマンで知られるやなせたかし氏の目に留まり、やなせ氏責任編集の『いちごえほん』『詩とメルヘン』に描いた挿絵が人気を呼んで「メルヘン画家」としての地位を確立していきます。

展覧会ではパステルカラーが美しい、夢の中の世界のような作品が並んでいます。
…が、ここでは「メルヘン」とはちょっと違った葉祥明の世界をご紹介したいと思います。

絵本に込めた平和への思い

メルヘン画家として活躍してきた葉祥明氏ですが、絵本制作にも再び取り組みます。
そこでは児童向けにとどまらず、戦争や社会問題を題材とした絵本をも手掛けました。

「難民を助ける会」の依頼で作画を担当した『地雷ではなく花をください』は、代表作として広く知られています。

『あの夏の日』(30-31頁 原画)2000年 北鎌倉葉祥明美術館所蔵

優しく穏やかな色彩が広がる会場の中、刺すような緊張感を放つ一枚は、絵本『あの夏の日』の一場面。

長崎に原爆が投下された「あの夏の日」を、長崎市の依頼で制作した絵本です。
子どもたちが水遊びしお母さんは赤ちゃんをあやす何気ない一日が、一瞬にして炎に包まれた光景。

終戦翌年の1946年に生まれた葉祥明氏の、平和を願う強い思いが込められています。

葉祥明氏の「魂の風景」

《Amazing Planet~祈りの星~》1991年 北鎌倉葉祥明美術館所蔵

穏やかな淡い色合いのメルヘン画家に、油彩のイメージは結びつかないかもしれません。

メルヘン画家として多忙を極め、疲れてしまった一時期の葉氏。生き方を模索する中で出会ったのが油絵でした。氏にとって油絵は自分の内面や哲学、思想の表現だといいます。

「我々は何なのか」「何処へ行こうとしているのか」。
氏の油絵には「魂の風景」が描かれています。それはもはやこの世の風景ではなく、広がるのは宇宙空間のような世界。

作品解説にも熱がこもる

「誰も見たことのない世界、息をのむような、意識が変わるような絵を描いていきたい」。

80歳を迎えてなお、新たな出発を期す。年を重ねたからこそ見えてきたものを表現したいというエネルギーがその言葉から伝わってきました。

会場風景

ゆったりとした時間が流れる展覧会会場。テーブルには氏の絵本が用意されており、絵本のページをめくりながら原画を眺められる贅沢な空間です。

神戸市立小磯記念美術館は、神戸に生まれ、神戸を拠点に制作を続けた洋画家の巨匠・小磯良平の画業を紹介する美術館。小磯良平の作品と神戸ゆかりの作家作品を3,300点以上所蔵し、移築されたアトリエを見ることもできる施設です。
なお六甲アイランドには「神戸ファッション美術館」や「神戸ゆかりの美術館」もありますから、ぐるっと美術館巡りなどはいかがでしょう。