【取材レポート】
春季特別展「古代黄金の物語」
MIHO MUSEUM【滋賀県】

会場エントランス

滋賀県甲賀の地。大自然の広大な敷地に建つMIHO MUSEUMで「古代黄金の物語」企画展が開催されています。
紀元前の頃、時代の技術の粋を尽くしてつくられ今なお光輝く品々が並ぶ展覧会です。

速報では古代の黄金の持つ美しさをお伝えしましたが、本レポートでは黄金に込められたいにしえの人々の思いにスポットを当てながら展覧会をご案内いたします。

穢れを払う 故人の魂を守る黄金の杯

(左)《牡牛装飾脚杯》(右)《猛禽装飾杯》共にイラン北西部 前12-前11世紀 MIHO MUSEUM蔵

三千年以上前のものとは思えないほどの輝き。朽ちることなく輝き続ける金は古代の人々を魅了しました。
これは紀元前12世紀〜11世紀に作られた黄金の杯。
副葬品であるこれらの杯は、猛禽は死穢を祓い、角を突き出す牡牛は魔除けの意味を持つと考えられています。
故人の魂を守るための黄金の杯です。

勇猛果敢 勝利の瞬間を刻んだ杯

《戦勝図杯》イラン西部/アッシリア 前7世紀 MIHO MUSEUM蔵

銀に金メッキを施したこの杯は、オリエント最古の世界帝国を築いたアッシリアのもの。
鉄器の製造技術を手に入れ、鉄製の戦車を製造したアッシリアは、圧倒的な軍事力を背景に勢力を拡大します。

杯の側面には、アッシリアがエラム王国に勝利した瞬間が刻まれています。
馬車で凱旋するアッシリア王とアッシリア軍。ひれ伏すエラム王と家来たち。
勝者、敗者の残酷なまでの落差がリアルに描かれています。

こうして周辺諸国を制圧していったアッシリアですが、過酷な支配のため諸民族が反発し国力が衰えていきます。エラム王国に勝利したわずか数十年後、アッシリア帝国は滅亡します。

世界帝国アケメネス朝ペルシャの黄金

展示風景

アッシリア滅亡後、古代オリエントの地で勢力を拡大したのはアケメネス朝ペルシアでした。
ペルシアはアッシリアを超える世界帝国となり、周辺諸国から膨大な富が流れ込みました。

ブレスレットやトルク、ペンダントなど重厚でありながら精緻な細工が施された美しい黄金が展示されています。

《雄鶏形容器》前アケメネス朝ペルシア 前7ー前6世紀 MIHO MUSEUM蔵

この雄鶏は儀式で聖水を入れるための器だそう。
金の冠が蓋になっていて、嘴の穴から水を注ぎます。

古代ペルシアの国教・ゾロアスター教では、雄鶏はその鋭い鳴き声で光を呼び邪気を払い、人々を善に目覚めさせる聖なる存在だったといいます。

《ペンダント付トルク》アケメネス朝ペルシア 前4世紀 MIHO MUSEUM蔵

隆盛を誇ったアケメネス朝ペルシアも、やがてマケドニアのアレクサンドロス大王に滅ぼされます。

速報レポートでもご紹介した豪華なトルクの裏側には、その目方がギリシア文字で刻まれています。
ペルシアの至宝も、戦利品としてギリシアに奪われました。
「盛者必衰の理をあらはす」のは世界共通のようです。

超絶技巧 粒金細工

《ゴールドイヤリング》ヘレニズム 前4世紀 Private collection,courtesy of Albion Art Jewellery Institute

ギリシア人がオリエント世界を制覇したことで、オリエント全体にギリシア文化が広がり東西の文化が融合。後にヘレニズムと呼ばれる文化です。

このイヤリングには「粒金細工」と呼ばれる小さな小さな球形の金粒が無数に散りばめられています。
2千年前の超絶技巧が完全な形で見られる逸品です。

《帯鉤》中国 漢時代 前2-3世紀 MIHO MUSEUM蔵

中国の黄金細工にもある超絶技巧。
見るからに凝った作りのこの帯鉤は、漢時代のものです。

「帯鉤」とはベルトのバックル。中央に配された龍は典型的な中国の意匠ですが、粒金技術など西方の意匠をとりいれています。

西域の名馬を求めて

《馬小像》中国 前漢時代 前2世紀 MIHO MUSEUM蔵

古代、名馬は高貴な存在でした。
古代中国の馬は背の低い「蒙古馬」でしたが、西域との交流を始めた漢の武帝は「一日千里を駆ける」と謳われる名馬「汗血馬」の存在を耳にします。
武帝は「黄金の馬」に千金をつけて汗血馬と交換しようと交渉しました。

《馬小像》は武帝が贈り物にした黄金の馬を彷彿とさせます。
結局交渉は叶わず、武帝は大軍を派遣して汗血馬を手に入れたのでした。

かわいらしいチビ兵士?実は勇猛な戦士

《戦士像》ペルー モチーカ 前100ー後800年 MIHO MUSEUM蔵

可愛らしい小さな戦士像を見つけました。
ペルー北海岸に栄えたインカ帝国以前の高度な文明の産物です。

よく見ると肩に棍棒を担いでいますね。この棍棒はアンデス文化では権威の象徴。
捕虜を一撃して生贄として捧げるためのものだったそう。
まあちっちゃい!と目に留めたのですが…どうやらそんなカワイイ存在では無かったようです。

展示風景

会場では他にもさまざまな古代の黄金が展示されています。
紹介しきれませんが、砂金の宝庫とされる中央アジア・バクトリアの遺跡から発掘された「バクトリア遺宝」の展示室は要注目。
拝火教神殿に捧げられた黄金の奉納板や神官像、装飾品など膨大な数の奉納品を観賞することができます。

日本美術の黄金も

野々村仁清作《色絵金銀彩花菱蓮弁文茶碗》江戸時代17世紀 MIHO MUSEUM蔵

別会場では「日本美術と黄金」の特集展示も開催中。
誰ヶ袖図の屏風や仏像、蒔絵の鼓胴、金泥文字による写経など金を使った日本美術が並びます。
日本美術では「金」そのものの存在を主張するのでなく、デザインの一部としてセンス良く金を散らしたものが多く見られます。

野々村仁清の茶碗もそのひとつ。春を思わせる萌黄色に金銀の細い線をあしらっています。
茶碗の中は黒。抹茶を立てるとさぞ映えることでしょう。

満開の枝垂桜

時を超えきらびやかに輝く黄金は、「砂金」から作られるもの。展覧会の冒頭、吹けば飛ぶような小さな砂金が展示されています。
神にささげるため、穢れを払うため、権力を示すために、金の小さな粒を追い求めかき集めた人びとの労力と執着。
「美しいから」だけでは足りない、いにしえの人びとが黄金に託した思念が感じられる展覧会でした。

MIHO MUSEUMのエントランス棟から美術館棟をつなぐトンネルの向こうに見えるのは、見事な枝垂桜。
例年4月20日過ぎには葉桜となりますが、散る桜も美しい。
これからの新緑の季節も青々とした緑の木々とシャクナゲやツツジなど季節の花々が楽しめます。
大自然の中、ゆったりとした気分でぜひ古代の黄金をご観賞ください。