【取材レポート第二弾】
特別展「尾張徳川家の雛まつり」
徳川美術館【名古屋市】
前回に引き続き、陽光も春めいてきた徳川美術館取材レポートの第二弾。
今回は学芸員の野村弥生さんの解説を交え、尾張徳川家のお雛様について掘り下げていくことにします。

徳川園黒門
どの時代劇だっけ…そんな既視感が湧く「徳川園黒門」。
ここは尾張徳川家2代当主・光友の隠居所だった大曽根屋敷跡、どうりで立派です。
美術館のほか、約7,000坪もある池泉回遊式日本庭園の徳川園をはじめ、登録有形文化財に認定された建築物などが建ち並ぶ、ぜひ一日かけてゆっくりまわりたいスポットです。
黒門をくぐって直進すると、白壁と緑の屋根の城のような徳川美術館に到着します。
美術館の中に立派な能舞台が!

名品コレクション展示室内の様子 展示室4 能舞台
国宝「源氏物語絵巻」や「初音の調度」で知られる徳川美術館。
そのぶん「敷居が高そう…」なんて二の足を踏んじゃってた人もいるのでは?
美術工芸品好きの方なら当館を観ないなんてもったいない!常設の名品コレクションは見どころ満載なんですから。
尾張徳川家に伝わる武具・刀剣、武家の接待として必需だった茶の湯や能、私的な生活の場で使用した奥道具などがずらり。
画像は、展示室にある原寸大復元した名古屋城二の丸御殿の能舞台。
思わず「おお!」と声が出てしまうほどの圧倒的存在感ですよ。
ロビーには現代の雛飾り

ご案内いただいた担当学芸員の野村弥生さん 大西人形本店の雛段飾りの前で
名品コレクション展示室の前のロビーに「現代の雛段飾り」が展示されていました。
創業明治15年の名古屋の老舗・大西人形本店の雛人形。「尾張徳川家の雛まつり」にあわせて毎年ロビーにしつらえる飾りつけだそう。
学芸員の野村弥生さんのご案内で、今回の主役のお雛さまが並ぶ本館展示室へと向かいます。
徳川美術館本館展示室の外観は、ほとんど昭和10年の開館当時のまま。国の登録有形文化財に登録された歴史ある建物です。
会場に足を踏み入れると、古風で優雅な当時の空気感に包まれていました。
お雛さまの起源 天児・這子

天児・這子(あまがつ・ほうこ)江戸時代 19世紀
尾張徳川家に伝わる豪華絢爛な雛人形、その歴史を辿るとどんなルーツに行き当たるのでしょう。
その原型となる人形を、野村さんに解説していただきましょう。
『向かって右が「天児(あまがつ)」、左が「這子(ほうこ)」と呼ばれる人形で、その歴史は平安時代まで遡ります。当時は新生児の死亡率がとても高く、雛人形は子どもたちに災いがふりかからないようにとの願いから生まれてきたものです。
「天児」「這子」は赤ちゃんの身代わり=「形代(かたしろ)」として災難を背負ってくれると考えられたんですね。
子どもたちの着物を新調した時も、災いを避けるためにまず天児に着せてから袖を通したそうです』
尾張徳川家珠玉のお雛様

内裏雛飾り 貞徳院矩姫(尾張徳川家14第慶勝正室)所用 江戸時代19世紀
お雛様の生い立ちを知ったところで、いよいよ尾張徳川家に伝わる珠玉のお雛様を見ていきましょう。
まずは前回のレポートでもご紹介した「有職雛」。公家の正装「束帯」と「十二単」を忠実に考証してつくられています。
今回は装束の素晴らしさをズームアップしてご紹介。

十二単を着用した女雛(部分)
とにかくこの十二単が美しいわぁ。近づいてみると、ものすごく緻密に精巧に織られているのがみてとれます。

五人囃子の衣装も素晴らしい
内裏雛だけでなく、その下で楽を奏でる五人囃子の衣装も見事なんです。
百聞は一見に如かず。ぜひ実物をご覧ください!
プライベート空間「奥」のお雛様

内裏雛飾り 貞徳院矩姫(尾張家14代慶勝正室)所用 江戸時代 19世紀
この小さな雛段飾りは、実はめったにお目にかかることのできないお雛様なのです。
まず江戸時代は、当主や家臣が政を行う「表」と、プライベートな空間「奥」が明確に区別されていた、ということ。それでお雛様も、来客に見せる「表」のものと、自分たちで楽しむ「奥」のお雛様の両方が存在したんですね。
そしてこのお雛様は「奥」の側のお雛さま。ごくごく内輪だけで飾られたお雛様だった、というわけなんです。
豪華で精巧な雛道具

菊折枝蒔絵雛道具 俊恭院福君(尾張徳川家11代斉温継室)所用 江戸時代19世紀
「雛道具」と呼ぶのが憚られてしまうほど、豪華で精巧なお道具が並んでいました。
こちらの雛道具はサイズこそ小さいですが、公家の最高位・近衛家から尾張徳川家11代斎温に嫁いだ福君の実際の婚礼調度と遜色なく作られた雛道具。なんて華麗なんでしょう。
籠に誇らしげに表された家紋は、近衛家の抱牡丹紋と徳川家の葵紋。どどーん控えおろ!って感じですかね。

(左)菊折枝蒔絵雛道具より貝桶・合貝 (右)菊折枝蒔絵調度より貝桶・合貝
俊恭院福君(尾張徳川家11代斉温継室)所用 江戸時代19世紀
福君の雛道具と実際の婚礼調度が並べて展示されていました。
これは貝桶・合貝という、姫君たちの遊び道具。貝殻の対を探す遊びだったんですって。
小さな雛道具にも同じように金粉を密に蒔いた梨子地の上に、葵紋、菊折枝紋があしらわれているのは驚きです。合貝にも美しい絵が描かれています。
絢爛豪華 壮大な雛段飾り

尾張徳川家三世代にわたる壮大な雛段飾り
「表」「奥」でいうと、明治から昭和にかけての尾張徳川家三世代の壮大な雛段飾りは「表」のお雛様。
その威容通り、見せるためのお雛様です。
展覧会のために特別に勢揃いしたのかと思いきや、尾張徳川家では実際に飾っていたというから驚き。幅7メートルって…。
「資料を見ながらなるべく当時のままに、美術館職員みんなで丸一日かかりました」学芸員の野村さんも苦笑い。
ふと、ひとりの姫君が複数のお雛様を所有していたことに気づきます。
初節句、成人、結婚など人生の節目節目で、雛人形を誂えたり、贈られたりしたとのこと。
そうして増えていったお雛様を一斉に飾りたてる。
お雛様には、お家の威信をかけた一面もあったのです。
雛段にカワイイ仔犬を発見!

雛段に飾られた毛作り人形
おや、とても可愛らしいヤツらを発見。なぜこんなにたくさんのワンこが雛段に?
これは「毛作り人形」といって、江戸後期から明治に流行した人形。
張子に絹糸を植えて切りそろえた、とても手間のかかった人形です。
さまざまな動物が作られましたが、お産が軽く多産で丈夫な犬が雛段に飾られました。
ん?よく見るとウサギもまぎれています。ウサギも多産ですものね。
徳川美術館で毎年恒例の「尾張徳川家の雛まつり」。
「毎年同じ展示と思われがちですが、実は毎年少しずつ変えているんですよ」と野村さん。
ひとりの姫だけでも相当数の雛道具だそうで、全部はとても展示しきれないそう。
娘の成長を願う親の思いは、いつの時代も同じです。
旧暦で祝う尾張徳川家の慣習に倣い4月上旬まで開催される展覧会を、ぜひごゆるりとお楽しみください。
特別展 尾張徳川家の雛まつり
会期:2026年2月7日(土)~4月5日(日)
会場:徳川美術館
Web:https://www.tokugawa-art-museum.jp
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日)
料金: 一般 1,600円 高・大生 800円 小・中生 500円

