【取材レポート】
企画展「お能、はじめまして。」
徳川美術館【名古屋市】
「能」。幻想的で魅力的ではあるけれど、歌舞伎よりもうひとつ近寄り難い…なんて思っていませんか?
そう言うアートザウルスも、観阿弥・世阿弥くらいしか知らない超初心者。
「お能、はじめまして。」というタイトルに惹かれて、徳川美術館にやってきました。
室町時代に大成した能楽

14世紀、室町時代に観阿弥・世阿弥によって大成した能。
そのルーツは奈良時代にまでさかのぼります。
8世紀に中国から伝来した「散楽」と呼ばれる芸能が「猿楽」へ変容し、歌と舞が融合した歌舞劇「能」と、セリフ中心のコメディー「狂言」を組み合わせて上演されるようになりました。
明治に入ると、能・狂言は「能楽」と呼ばれ親しまれます。
能楽は、足利義満、豊臣秀吉、徳川家康など時の権力者に支援され守られてきた伝統芸能。
その基本型が定まった室町時代から現在まで600年ものあいだ同じ様式で演じられ、能舞台や面の様式もまた現代まで引き継がれているのです。
能面って無表情?

能面 小面 伝是閑吉満(大野出目家初代)作 桃山-江戸 16-17世紀 徳川美術館蔵
能の世界で最も大切な要素とされるのが「能面」。
面をつけることで演者は「役を演じる」のではなく「役が降りてくる」「役を身に宿す」といいます。役が憑依する感覚でしょうか。
一見無表情に見える能面。だからこそ、角度によってさまざまな表情に見えることがよくわかります。
少し上を向くと喜んでいるように、下を向くと悲しんでいるような、怒っているような表情に映るのです。
女面から怨霊まで!能面は多種多彩

展示風景
能面の基本形は60種類ほどあり、最も神聖とされる「翁面」、男性の老人「尉面」、「男面」、「女面」、般若や生成などの「怨霊面」、神や天狗などの「鬼神面」の6つのグループから成ります。
それぞれのバリエーションで現在は200種類以上あるといわれています。
能面は、「シテ」(主役)がこの世に存在しない亡霊、精霊、鬼などの役柄、あるいは女性や老人を演じるときにつけるもの。
一方「ワキ」と呼ばれる相手役は、武士や僧侶など現実の男性の役であって、面はつけません。
女面にもいろいろな種類が

女面展示風景
女面が並んでいますが、違いがわかるでしょうか。
手前の面が年若い女性で、奥に行くほど年を重ねていっているんです。
一番奥が「姥」、そうお婆さんの面。
代表的な女面は年齢順に9面あって、それぞれ描き方にルールがあるんです。

わかりやすい展示パネル
違いがわかりやすいのは髪の毛。
額から流れるおくれ毛が、年を経ると乱れてきます。
会場の要所要所にこのような解説パネルがあるので、知識がなくても十分に楽しめますよ。
人ならざる者!の面

神面展示風景
こちらは「人ならざる者」!神や鬼、怨霊の面々。
手前は雷神、中央は天神。奥は小尉といって神の化身として登場する品格の高い老人です。
「人ならざる者」の面は、目や歯に金色が施されているのが特徴。

能面 般若 焼印「天下一是閑」 朱漆花押 是閑吉満(大野出目家初代)作 桃山-江戸 16-17世紀 徳川美術館蔵
出ました般若。
能に縁がない人でも知らぬ人はいないのではないでしょうか。
その表情その風格、金の角に歯や目も金。
「人ならざる者」のトップスターです。

般若面を裏から見ると…
面の裏から覗いてみましょ。裏側なんて普段見る機会がないですよね。
あれ?意外。表はあんなに怖いのに、裏はなんだか笑っているように見えますね。
でも演者さんの視界って、こんな小さな穴だけですか。
6メートル四方の能舞台をこんな狭い視界で演じてると思うと…たいへんだなぁ。
装束で役柄を表す

紅・白段簾に花の丸文唐織 江戸 18世紀 徳川美術館蔵
豪華な装束も能の見どころのひとつ。
ただ美しいだけでなく、性別や年齢、身分を表しているんです。
例えばこの装束。鮮やかな色づかいや桜や菊などの可憐な文様から、若い女性ということがわかります。
小面や若女といった面をあわせれば、うら若い女性役の完成です。
小道具にもご注目

羽団扇 江戸 19世紀 徳川美術館蔵
『鞍馬天狗』の必須アイテム、羽団扇です。
なんて綺麗な羽根…と思ったらそれもそのはず、一羽の大鷲の尾羽でつくられているそう。
美しい小道具にもぜひ注目してください。
忘れちゃいけない笛太鼓

夕顔蒔絵小鼓 黒漆銘「 弥左衛門(花押)」 弥左衛門作 江戸 18世紀 徳川美術館蔵
能で忘れていけないもうひとつは楽器。
「笛」「小鼓」「大鼓」「太鼓」から成る楽器「囃子(はやし)」と、コーラス「謡(うたい)」の5人が、能の音楽を担っています。
お雛様の五人囃子と同じですね。
小鼓の胴に施された美しい蒔絵もお見逃しなく。
狂言面は表情が豊か

狂言面の展示風景
能とセットで上演される狂言は、庶民の生活を描いたセリフ中心の喜劇。
悲劇や神話を謡と舞で表現する能とは対照的です。
狂言ではあまり面を用いませんが、老人、神、鬼や動物を演じる際には面をつけます。
狂言面は表情豊かでユーモラスな顔立ち。お猿さんもカワイイですね。

狂言面 鳶 焼印「和泉」 伝和泉作 江戸 18世紀 徳川美術館蔵
最後に個人的にお気に入りの狂言面をひとつ。
嘴の造形がとってもおみごと。
インド神話に登場するカルラの面?と思いましたが、鳶でした。
天狗役に用いられるそうです。
実は身近な「能」の世界
「はじめまして」の能、いかがでしたでしょうか。
意外なことに、現代でも能は身近なところにあったんです。
「ノリがいい」「脇役」「番組」「三拍子そろう」「檜舞台」…。
私たちが日常使っている言葉の中に、能を語源とするものがたくさん息づいていました。
展覧会を観賞したら、近寄り難かった「能」が手招きしているような気分になれますよ。
同時開催の企画展示「現代クリエイターとの遭遇」
もうひとつ、同時開催中の企画をご紹介します。
中京テレビ「ムジナバケール」との共同企画「現代クリエイターとの遭遇」展にもおじゃましました。

「現代クリエイターとの遭遇」展示風景
「ムジナバケール」は、徳川美術館の所蔵品に多様なジャンルの現代クリエイターがチャレンジし、新たに表現しなおすアート番組。
尾張徳川家に伝わるお宝を、現代のアーティストがどう表現するのか楽しめる企画です。

(左)安居智博 バルーン鎧兜 (右)銀溜白糸威具足 徳川義直(尾張家初代)着用
この企画展、クリエイター作品は、「ムジナバケール展」として愛知、東京、神戸と巡回してきました。
徳川美術館での展示はクリエイターの作品の横にモチーフとなった美術館のお宝が並べて展示されているので、アーティストの意図やアレンジがとっても明快に見てとれます。

徳川美術館副館長・神谷浩氏
「稀にしか展示しないようなお宝も今回は並べてるんですよ」と、会場をご案内いただいた副館長の神谷浩氏。
現代クリエイターのインスピレーションのおかげで、歴史ある逸品にも「こんな見方があったのか」と新鮮な発見が続出。
能の企画展に続けて鑑賞できるので、こちらもぜひお楽しみください。
企画展 お能、はじめまして。
会期:2026年6月25日(木)~7月20日(月・祝)
中京テレビ ムジナバケール×徳川美術館共同企画展示 現代クリエイターとの遭遇
会期:2026年6月25日(木)~7月12日(日)
会場:徳川美術館
Web:https://www.tokugawa-art-museum.jp
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(7月20日は祝日のため開館)
料金: 一般 2,000円 高・大生 1,200円 小・中生 無料


