【取材レポート】
「第78回 正倉院展」
奈良国立博物館 <奈良市>

会場入口には幻想的なタペストリー

古都・奈良を彩る秋の風物詩『正倉院展』は、今年で78回目を迎えます。
正倉院に眠るのは、約1300年も昔の奈良時代の宝物。現在もなお驚くほど良好な状態で大切に守り伝えられてきた逸品たちです。

約9,000件にものぼる宝物の中から、毎年選ばれた約60件が公開される正倉院展。
今年は、どんな宝物に出会えるのでしょうか。
開幕を翌日に控えた報道内覧会で、会場を取材しました。

正倉院の影の主役「櫃」

《古櫃(蓋付の収納容器)》奈良時代(8世紀)

「なんだろう、この地味な箱……」なんて思わないでください。
実はこの箱こそ、1300年ものあいだ正倉院の宝物を守ってきた立役者なんですから。

「櫃(ひつ)」と呼ばれる木製の収納容器は、内部の湿度変化がとても少ないのが最大の特徴。
正倉院にはこのような櫃が206個伝わっていて、多くの宝物がその中に収められ大切に保管されてきました。

現代の私たちが1300年前の美しい宝物を見ることができるのも、こうした「櫃」が宝物を守り続けてきたおかげなのです。

聖武天皇ゆかりの宝物

正倉院は、もともと東大寺の倉庫。
東大寺ゆかりの仏具や大仏開眼会に関わる品々、写経などが収められており、その中には大仏建立を発願した聖武天皇が愛用した品々も残されています。

聖武天皇が崩御した後、光明皇后がこれらの遺愛品を大仏に捧げ、現在まで大切に伝えられてきました。

《彫石横笛(石製の横笛)》奈良時代または中国・唐(8世紀)

「ん?」会場にかすかに響く笛の音に誘われて進んでいくと、そこには細やかな彫刻が施された美しい横笛が。
聞こえていたのは、この笛の復元音声とのこと。聖武天皇ゆかりの笛です。

唐から伝わったこの横笛、なんと「石」でできています。
ミラー展示台なので、笛の裏側の模様までじっくり観賞することができますよ。

手前左《紅牙撥鏤碁子(染め象牙の碁石)》中国・唐または奈良時代(8世紀)
手前右《紺牙撥鏤碁子(染め象牙の碁石)》中国・唐または奈良時代(8世紀)
奥《銀平脱合子(碁石の容器)》中国・唐または奈良時代(8世紀)

赤と紺の粒は、聖武天皇ご遺愛の華やかな碁石。小さくてもタダモノじゃない。
赤いほうにはヤツガシラ、紺の碁石には花枝を咥えたカモとみられる鳥の姿が彫られています。
とても愛らしいこれら碁石は、「合子(ごうす)」と呼ばれる蓋付きの入れ物に収められていました。

報道内覧会当日の会場風景

壁の解説パネルには、碁石の拡大画像と制作技法が紹介されています。
表面を赤や紺色に染めた象牙を彫り、白い模様を表現した碁石。
どれも同じように見えますが、よく見るとひとつひとつ模様が違っているんです。

宝物に施された文様を拡大したパネルが随所に設置されているので、実物では見つけにくい細かな文様まで見てとることができます。

《漆胡瓶(ペルシア風の水差し)》中国・唐(8世紀)

報道陣が途切れずカメラを向けるその先には…今回の正倉院展のメインビジュアルとなっている漆胡瓶。
こちらも聖武天皇ゆかりのお品。

長い頸と美しい曲線を描く把手を持つ水差しで、その形はシルクロードの西方・ペルシアの影響を感じさせます。
唐でも珍重され陶製のものなどがつくられましたが、漆でつくられた完成品は現在中国にも残っていません。
日本に伝わったこの漆胡瓶が、現存する唯一のものとされています。

そして何より目を引くのが、施された美しい文様。
山岳や草花、鹿、鳥、蝶などが細やかに描かれており、いまもなお華やかで繊細な美しさを湛えています。

服や履物、龍のミイラも⁉

《橡地臈纈絁袍(ろうけつ染めの上着)》奈良時代(8世紀)

正倉院にはバリエーションにあふれた品たちが収められています。

こちらは官人や貴族が着る「袍」と呼ばれる上着。
橡色と言われる緑がかった焦茶の地色に緑と橙色の2種類の鳥が連続するおしゃれなデザイン。
絹綿を入れた冬用の上着だそうです。

《履(革製のくつ)》奈良時代(8世紀)

反り返ったフォルムが印象的な奈良時代の履。
爪先前面の唐草文がポイントですね。
主に牛革でつくられていますが、側面の内側には柔らかい鹿革を使い、中敷にはイグサの筵を麻布で包んだりと、なかなか凝ったつくりになってます。

《虹龍(ニホンテンのミイラ)》平安時代(11~12世紀)

おっとこれはナニ?――正倉院には、いまだ謎に包まれた宝物も納められています。
「虹龍(こうりゅう)」と名付けられたこのミイラは、近年の調査によっておよそ900年前のニホンテンであることが分かりました。

どんな理由があって正倉院に納められたのか?たまたま迷い込んだテンがミイラになって、なぜか宝庫に収められたのか?その理由は今も謎のままです。

1429年、将軍の足利義教が正倉院の宝庫に入った際に「龍日干(りゅうのひぼし)」を見たという記録が残されています。
正倉院には龍がいると信じられ、「扉を開くときには雨が降る」と伝えられるそうですから、このミイラのことなのかもしれませんね。

見逃さないで!正倉院古文書は面白い

正倉院には、東大寺の写経所などで使われていた古文書も数多く残されています。
華やかな宝物に比べるとつい、文書の展示はさっと見て通り過ぎてしまいがち……。
でもちょっと待って!見逃してしまうのはもったいないですよ!

正倉院の古文書は、じっくり見てみると実はとても興味深いのです。
そこからは、当時の人々の暮らしや仕事の様子がリアルに伝わってくるからです。

《正倉院古文書正集 第九巻[左京職正税帳、右京計帳](京内の財政・徴税関係の書類)》奈良時代(8世紀)

紙は貴重品だったため、東大寺写経所では不要になった公文書を再利用していました。
なので事務文書の裏面に、その頃の戸籍や税の徴収記録などが残されていることがあるんです。

上の画像は、住民が納税前に役所に提出した申告書。現在の戸籍と同様に、世帯の家族の名前や年齢などが書かれています。

文字を練習した跡も残されています。おや、「妙」って字を繰り返し書いてる人がいます。
納得がいかなかったの?奈良時代の人が身近に感じられて、ちょっと面白いですね。

《正倉院古文書正集 第三十五巻[播磨国郡稲帳、備中国大税負死亡人帳、周防国正税帳](地方諸国の財政関係の書類)》奈良時代(8世紀)

こちらは播磨国(現在の兵庫県西南部)の財政の年間収支報告書。
出張で移動する役人に、播磨国の財源から食料を支給したことが書かれています。

「三日食米 一斗五合」「酒 一斗二合」など具体的に書かれているので、当時の食糧事情が垣間見えてとても面白い。
出張でやってきた役人に、お酒も用意していたようです。

東大寺ゆかりの美しい宝物

《密陀彩絵箱(鳥獣文様の献物箱)》飛鳥~奈良時代(7~8世紀

東大寺ゆかりの宝物、その中から「まさに芸術品!」と感じるものを少しご紹介します。
木製黒漆塗りの美しい箱。これは752年の大仏開眼会で、東大寺に香を献納するために使われたものだそうです。

漆塗りはツヤツヤ、彩色文様も色鮮やかにクッキリ。
とても千年以上前のものとは思えません。冒頭にご紹介した宝物の収納容器「櫃」の威力を思い知らされます。

《金銅花形合子(透彫りの蓋物)》奈良時代(8世紀)

キラキラと輝く美しい透彫り。その模様が影となって展示台の上に映し出されているのも、なんとも趣深い逸品です。仏前にお供えするものを入れる容器だそうです。
「金銅」とは、銅の表面に金メッキを施したもの。
経年劣化でメッキが剥がれるようなこともなく、美しい輝きを放つことに驚かされます。

《白瑠璃瓶(ガラスの水差し)》西アジア(9~11世紀頃)

今年の正倉院展のラストを飾るのは、シルクロードの西方、西アジアからはるばる日本へ伝わった美しいガラスの水差しです。
異国からやってきた貴重な宝物として大切に守られてきたこの水瓶は、今もなおヒビひとつありません。
スポットライトに照らされたその姿は、悠久の時を経た気品が漂うようです。

想像すらできない長さの時間を超えて、今に伝わる美しい宝物の数々。
正倉院展は、まるで奈良時代からのタイムカプセルを開くような、特別な体験となるに違いありません。

館内と館外2か所の特設ショップ

会場内1階特設ショップのオリジナルグッズ

さて皆さんお楽しみのオリジナルグッズを探しに行きましょう!
展示会場内の1階と、屋外の博物館南出口近くの2か所に特設ショップが設けられています。
奈良らしい、訪問の記念にぴったりのグッズが並んでましたよ。

屋外ショップの方は、展示会の入場券を持っていない人も利用できるようになってます。
それぞれのショップで品ぞろえが異なりますから、ぜひ両方チェックしてみてください!