【取材レポート】
特別展「源氏物語 王朝のかがやき」
京都国立博物館 平成知新館<京都市>

京都会場展覧会看板
平安時代に紫式部によって著され、千年もの長きにわたり読み継がれてきた『源氏物語』。
貴族文化全盛期の宮廷を舞台とした人間模様を細やかに表現した王朝物語は、文字の世界を超え、絵画や工芸品、芸能などを生み出してきました。
その『源氏物語』をめぐる絵巻や工芸品、写本などを紹介する展覧会が、京都国立博物館で開催されています。
京都国立博物館では約50年ぶり、来年1月から開催される東京国立博物館では初となる「源氏物語展」。
両国立博物館が総力を挙げた「源氏物語展の決定版」たるこの展覧会は、国宝、重要文化財をはじめ美の逸品が集結し、最新の研究成果や発見を目にすることができるまたとない機会です。
奇跡の発見 定家本「若紫」
『源氏物語』は作者である紫式部の自筆本は失われており、多くの人に書き写されて後世に伝えられてきました。
展覧会の冒頭に登場するのは、2019年に発見された『源氏物語』の写本です。

《源氏物語(定家本) 若紫》鎌倉時代 13世紀(通期展示) 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
この写本は、鎌倉時代の歌人で文学研究者でもあった藤原定家が書写を監督した「定家本」と呼ばれるもの。
鎌倉時代、『源氏物語』は必要な帖だけ書写したり巻の順番が異なっていたりと、すでに乱れた状態になっていました。定家がそれを憂いて体系化したのが「定家本」。現在読まれている『源氏物語』のルーツとなっています。
これまで「定家本」は54帖のうち4帖のみが伝わっていましたが、2019年に『奇跡の発見』といわれる「若紫」が加わり5帖となりました。
11月3日〜15日には現在確認されている5帖全てが史上初めて一堂に展示されますので、こちらもお楽しみに!
それにしても文字数約100万文字、登場人物約500人ともいわれる『源氏物語』。多くの人がひたすら書き写していたなんて…。人気ぶりがうかがえるというもの。
作者・紫式部とは?

《紫式部像》土佐光起筆 江戸時代 17世紀 滋賀・石山寺蔵(前期展示) 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
紫式部は幼少より文学に親しみ、その素養を生かして執筆を始め、藤原道長の娘の中宮・彰子に仕えました。
そのころ書かれた『紫式部日記』には、寛弘5年(1008年)に『源氏物語』と思われる物語の冊子作りが行われたと記されています。
この日記には意に染まぬあだ名をつけられて憤慨したことなども書かれており、なんだか彼女が身近に感じられます。

スタイリッシュな京都会場風景
とても広い展示会場!1階から3階まであるゆったりとした展示スペースに作品が並び、多少混雑していても息苦しくなさそうです。
そしていよいよ国宝の《源氏物語絵巻》の登場。
国宝《源氏物語絵巻》

国宝《源氏物語絵巻 柏木一》平安時代 12世紀 愛知・徳川美術館蔵(10月6日~10月18日展示) 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
現存最古の源氏絵《源氏物語絵巻》は、場面を替えて全期間展示されます。
「吹抜屋台」と呼ばれる上から室内全体を見下ろすような構図は、小さな画面の中に部屋全体の様子を描くのにとても効果的だと実感。詞書の料紙もとても美しく、贅を尽くした絵巻です。
時代とともに変化する『源氏物語』の読まれ方
「かな文字」が発達した平安時代。その覚えやすさから宮廷の女性たちがこぞって筆をとるようになり、『枕草子』や『更級日記』など世界でも珍しい女流文学が発展しました。
中でも『源氏物語』は、宮廷の女房たちの間で熱狂的に読まれます。
かな文字で書かれた物語はもともと女性や子どもが読むものとされましたが、評判が広まるにつれ男性も読むようになり、藤原道長や一条天皇も手に取るようになりました。
鎌倉時代になると、『源氏物語』は古典を身につけるため公家だけでなく武士にも読まれるようになり、内容を理解するための注釈書も数多く作られました。
江戸時代には、木版印刷の普及によって『源氏物語』が庶民にも広まります。本居宣長らによる研究も進み、平安時代の宮廷文化を受け継ぐものとして徳川幕府も『源氏物語』を重用しました。
このように『源氏物語』は時代ごとの権力者や社会情勢に影響を受けながら、さまざまな形で読み継がれました。
空間を彩る源氏絵

《車争図屛風》(右隻)土佐光茂筆 室町時代 永禄3年 (左隻)(部分)江戸時代 17世紀 京都・仁和寺蔵 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
この迫力の屛風絵は、源氏の正妻・葵上の従者と源氏の元恋人・六条御息所の従者で見物場所の取り合いとなった「車争」の場面。人々の様子が細かに描きこまれています。
右隻は室町時代末期の作。大画面の源氏絵としては現存する最古級作品の一つです。
安土桃山時代以降、『源氏物語』は空間を華やかに彩る画題として大画面の屛風に多く描かれるようになります。
さまざまな絵師の描いた煌びやかな屛風を会場でぜひご覧ください。

重要文化財《源氏物語画帖》 土佐光吉・長次郎筆 安土桃山~江戸時代 17世紀 京都国立博物館蔵 (通期展示、帖替あり) 京都会場のみに出品 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
大画面の屛風だけでなく、細やかな源氏絵も描かれていました。
源氏物語全帖揃いの色紙セットは当時も人気で、画帖に貼ったり屛風に貼ったりして楽しんでいたそう。
幻の源氏物語絵巻

《源氏物語絵巻(盛安本)葵》 江戸時代 17世紀 京都国立博物館蔵 (通期展示、巻替あり)この場面は京都会場のみに出品 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
「幻の源氏物語絵巻」と呼ばれ、近年注目を集めている盛安本。
物語の全文を書写し多くの絵をつけた壮大な作品で、完成していれば二百巻を超えるといわれています。しかし現在確認されているのは「桐壺」から「賢木」まで。
最後まで完成したのかどうかもわかっていません。そんな謎に包まれたところも、この作品の大きな魅力です。
ご覧の通り金がふんだんに使われており、フランスでは「黄金の庭絵巻」とも呼ばれる美しい絵巻です。
必見! 国宝《初音の調度》

国宝《初音の調度》のうち松音蒔絵書棚、胡蝶蒔絵挟箱 幸阿弥長重作 江戸時代 寛永16年 愛知・徳川美術館蔵 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
『源氏物語』は絵画の世界にとどまらず、工芸品の意匠にも表されます。
キラキラと輝く美しいお道具は、あの有名な国宝《初音の調度》。
三代将軍・徳川家光の長女・千代姫が、尾張藩の二代藩主・徳川光友に嫁した際の婚礼調度です。

国宝《初音の調度》のうち初音蒔絵旅香具箱 幸阿弥長重作 江戸時代 寛永16年 愛知・徳川美術館蔵 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
江戸時代、『源氏物語』は教養を身につけるための本として広まり、大名家などに嫁ぐ際に持参する「嫁入り本」にもなっていたそう。書箪笥も制作され、婚礼道具に『源氏物語』の意匠が用いられるようになります。
《初音の調度》には、『源氏物語』の「初音」や「胡蝶」の場面が蒔絵で表現されています。人物を直接描くのではなく、物語の特定の場面を連想させるモチーフを使ってその情景を象徴的に表す「留守文様」という技法が用いられています。
源氏物語と能

山口能装束研究所の復原能装束による源氏能<葵上>の再現能舞台 京都会場のみに出品 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
京都会場のトピック展示は「源氏物語と能」。『源氏物語』を主題とした能は「源氏能」として現代でも人気を博しています。
会場にしつらえられた再現能舞台。
その上に並ぶのは、山口能装束研究所が手掛けた能<葵上>の美しい復原能装束。
スポットライトに照らされて、まばゆいばかりです。
技術的にも芸術的にも最高水準に達していた江戸中期の能装束を復原するため、無農薬で育てた桑で養蚕するなど可能な限り江戸時代と同じ環境でつくられているんです。

能面の展示風景 重要文化財 東京国立博物館蔵 特別展「源氏物語 王朝のかがやき」会場写真(京都)
能<葵上>は、単にストーリーを追うのではなく、光源氏への執着や正妻・葵上への嫉妬からついに生霊と化してしまう六条御息所の感情にスポットをあてています。
六条御息所の心の移り変わりを表すのが「面」。六条御息所がついには鬼女と化す場面は、ご存じ般若の面をつけて演じられます。
描き継がれる『源氏物語』

京都会場展示風景
展覧会の締めくくりは、近代の源氏絵。画面左の屛風は大正〜昭和初期の日本画家・松岡映丘の作品で、色鮮やかで澄んだ画面が印象的です。
古典を踏襲しながらも、独自の解釈をのせた絵が現代も描き継がれています。

俳優・塩野瑛久さんと京博公式キャラクターのトラりん
本展の音声ガイドナビゲーターは、NHK大河ドラマ「光る君へ」(NHK) で一条天皇を演じた俳優の塩野瑛久さん。
報道発表会に登壇した塩野さんは、煌びやかで繊細な細工の《初音の調度》に感銘を受けたと語っていました。

オリジナルアイテムがこぼれんばかりの特設ショップ
忘れちゃいけない特設ショップ。オリジナルグッズがてんこ盛りで目移りしそう。
京都会場限定の「LUPICIA オリジナルブレンドティー 和柑橘」1,700円(税込)はとてもいい香り!会場でぜひお試しください。
千年の時を超えて読み継がれてきた『源氏物語』の世界を、千年の都・京都で堪能する。芸術の秋のひとときを京都国立博物館でお過ごしください。
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特別展 源氏物語 王朝のかがやき
会期:2026(令和8)年10月6日(火)~11月29日(日)
[主な展示替]
前期展示:2026年10月6日(火)~11月1日(日)
後期展示:2026年11月3日(火・祝)~11月29日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
会場:京都国立博物館 平成知新館
開館時間:9:00~17:30(入館は17:00まで)
金曜日 9:00~20:00(入館は19:30まで)
休館日:月曜日(※ただし、2026年11月23日(月・祝)は開館)、2026年11月24日(火)
料金: 一般 2,200円 大学生1,200円 高校生 700円 ほか 中学生以下、障がい者手帳をご提示の方とその介護者1名は無料(要証明)
公式サイト:https://genjiten.jp


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