【取材レポート】
リニューアルオープン記念展 
「千住博 水の調べ、水の響き」
佐川美術館<滋賀県>

会場入口の看板

昨年10月からの改修工事を経て、今年7月1日にリニューアルオープンした佐川美術館。
そのオープニングを飾る本企画展は、1995 年のヴェネツィア・ビエンナーレで東洋人初の名誉賞を受賞するなど現代日本のアートシーンを牽引する日本画家・千住博氏の「水の調べ、水の響き」です。

代名詞《ウォーターフォール》の原点《フラットウォーター》

千住氏の代名詞といえば、ご存じ『滝』をモチーフとした作品《ウォーターフォール》。
そして本展の先頭を飾るのは、《ウォーターフォール》の原点ともいえる《フラットウォーター》連作です。

《フラットウォーター》シリーズ展示風景

1993年発表の《フラットウォーター》は、ハワイ島キラウエア火山を取材した連作。
和紙の大画面いっぱいに広がる溶岩。ごつごつとした黒い地肌が生々しく、人間が抗うことのできない大自然の力を感じます。46億年前、地球創生の姿を思わせる壮大な光景です。

《フラットウォーター》シリーズは日本画の枠を超えたダイナミックな主題と描写がアメリカで評判となり、千住博の名を一気に高めました。

コロナ禍で失われた光を求めて

《ウォーターフォール・オン・カラーズ》2022年 佐川美術館蔵

そしていよいよ《ウォーターフォール》の登場です。
最初期の《ウォーターフォール》は、漆黒の画面の中を輝く滝が落ちていくモノクロの世界観でした。しかしこの作品は、純白の背景に舞う鮮やかな色彩に目を奪われます。

《ウォーターフォール・オン・カラーズ》は、コロナ禍をきっかけに生まれた作品。
色が失われたかのように閉塞感に満ちた世界の中でも、光が差し込んでいることを忘れてはいけないという思いから、千住氏はこのシリーズに取り組みました。
滝の裏側からの視点で描かれているのも特徴。滝を通して見た外の世界には、多彩な光が満ち溢れていることを訴えかけます。

《ウォーターフォール・オン・カラーズ》シリーズ展示風景

今回のリニューアルでは、2つの展示室をひとつにつないで天井高も5メートルに。
大型のインスタレーション作品なども展示できるようになりました。
この広々とした空間に、千住のウォーターフォールの大作が並ぶ姿は壮観です。

青白く輝く神秘的な空間

(左)《龍神Ⅱ》六曲一双 2015年 軽井沢千住博美術館蔵 (右)《龍神Ⅰ》六曲一双 2015年 軽井沢千住博美術館蔵

暗幕をくぐって次の展示室へ進むと、そこに待っていたのは別世界でした。
蛍光塗料で描かれた滝がブラックライトで照らされ、壁一面が青白く発光。
両側の滝に挟まれて歩けば、水音がステレオで聞こえてきそう。
モーゼになったような神秘的な体験です。

水滴の飛沫?はたまた宇宙の銀河?(《龍神Ⅰ》部分)

制作にあたり、滝の流れの部分は絵具を上から垂らし、水飛沫は主にエアブラシで吹き付けて描いたそう。偶然に任せたようにも見えますが、垂れた絵具をどこで止めるか、どこに重ねるかなど、千住氏の意図が込められています。千住氏は「無作為中の作為」と語ります。

《龍神Ⅱ》六曲一双 2015年 軽井沢千住博美術館蔵

神秘的なブルーから淡白いバイオレットの滝へ、照明が30秒ごとにゆっくり変移します。
見ていると、視界が宇宙空間から一面の雪景色に切り替わっていくような感覚に浸れます。

伝統と革新の融合

美しい会場造作にもご期待

ブラックライトルームを出ると、暗闇の中に浮かび上がるもうひとつの滝。
最新作の六曲一双の屏風はモノクロームの世界。
屏風の台は鏡面仕上げとなっていて、湖面のように作品を反射しています。

《ウォーターフォール(夏)》軸装 2023年 佐川美術館

軸装の《ウォーターフォール》。古式由来の掛軸と、千住氏の革新的な日本画の融合です。
掛軸の表装にもご注目ください。どの軸も大胆な柄の裂地が素晴らしい!この裂も千住氏が収集した貴重な古裂だそうです。
《ウォーターフォール》と斬新な表装がコラボレートした作品となっていま

《ウォーターフォール》2021年 佐川美術館蔵

最後に登場する《ウォーターフォール》は、通常の作品とは輝きがちょっと違います。
なんと画材に貴金属のプラチナを使用しているそう。
見る角度によって滝の表情が変わるので、色々な位置から確かめてみてください。

担当学芸員の栗田頌子さん

彩が舞う滝壺の傍らに佇むのは、ご案内いただいた学芸員の栗田頌子さん。
これだけの千住作品が揃って観賞できる機会はあまりないはず、とのこと。
「《ウォーターフォール》はもちろん、原点となった《フラットウォーター》もぜひご覧いただければ」。
一連の壮大な作品からは、自然や地球の息吹が存分に伝わりました。

新設された多目的室

今回のリニューアルで登場した多目的室。明るく開放的で、どことなく和の感覚が漂います。
会期中上映されているのは、千住博氏のインタビュー映像です。

アートザウルスおすすめ!樂吉左衞門館

千住博展をご覧いただいた後にぜひ足を運んでいただきたいのが、美術館の地下にある樂吉左衞門館です。

樂吉左衛門館へ続くミステリアスな地下トンネル

桃山時代、千利休450年続く「樂茶碗」で知られる名門・樂家。
その第15代樂吉左衞門で、代を譲り名を改めた樂直入の作品を観賞できる展示室です。

「茶陶の知識は無いし…」と、訪れずに通り過ぎてしまうのはあまりにもったいない。
樂直入自身の設計創案による、美意識が凝縮された展示室は一見の価値があるからです。

樂吉左衛門館ホール空間

美術館からの連絡路の階段を降りて行くと…、計算された照明に妖しく照らされる地下ホール。
さながら映画で見るような巨大クラブのフロアに迷い込んだかと錯覚します。
年に数回、立礼席の呈茶が実施されているそうです(予約制)。

樂直入展 創造の軌跡 展示風景

作品の展示スペースは外光が遮断され、スポットの光に浮かび上がる茶碗。
展示台もミニマムな装飾もすごい。
地下にひっそりと広がる超感覚空間は見ごたえ十分。
限りなくモダンなアーキテクチャと、450年の伝統を受け継ぐ作品の見事な調和に圧倒されます。

佐川美術館を訪れた際にはぜひ樂吉左衞門館にも足を運んで、現実離れしたひと時をご体験ください。